「ブラックだけがコーヒーか?」ある企画職の自問自答インタビュー!

「ブラックだけがコーヒーか?」ある企画職の自問自答インタビュー!

はじめまして。ドリコムの佐藤広隆です。ゲームデザイナーをやっています。

ブログで自分語りをしてと言われたんですが、試してみたところけっこうきつかったので、急遽インタビュー形式に変更してお届けします。

ただ、考えてみたらインタビュアーは別に必要ないので、聞き手も自分です。ご理解よろしくお願いします。

とあるカフェ(仮)にて

聞き手(以下、佐藤):こんにちは、佐藤と申します。今日はよろしくお願いいたします。

聞き手の佐藤:ドリコムの企画職。好きな作品は『喧嘩稼業』、『けものフレンズ』、『ドロヘドロ』など。

佐藤:よろしくお願いします! 佐藤です!好きな漫画は『喧嘩稼業』1です!

インタビューを受けてくれた佐藤さん:ドリコムの企画職。好きな作品は『喧嘩稼業』、『乙嫁語り』、『シドニアの騎士』など。

佐藤:佐藤姓としては外せない漫画2ですよね。うちの会社、やたら佐藤多い3ですけど、その割に『稼業』好きは見かけないような……

佐藤:作者が佐川4推しだからじゃないですかね。あのガラス球の話5にはみんな共感するでしょ!ただ、自分は毒薬じゃなくて鉛色の液体6が……

佐藤:わかる! じゃあ、まず好きなキャラの話から始めて、次に好きな流派、技、ベストバウトあたりに………… と思ったんですが、さっきから諸岡さん7が中日の井端みたいな顔してこっち見てるので先に仕事の話してしまいましょうか!

佐藤:承知です! (`・ω・´)ゞ

どうしてゲームデザイナーを目指したのか?

佐藤:えーと、で、そもそもなぜゲーム制作を志したんですか?

佐藤:ファミコン世代の子供はみんなそうだったんですよ。理由はない。時代だったんです。

佐藤:なるほど、じゃあ最初から夢だったと。

佐藤:いえ、将来の夢的なやつは「軍人」と書いてました。幼稚園からずっと。親が軍オタで『世界の艦船』と『PANZER』と。『AIR WORLD』8を購読してたせいですね。

佐藤:陸海空そろってる!

佐藤:防大は遠泳でやめました。イクチオステガ9が頑張って出て来たのにまた海に入りたくないし……。   とはいえ、こうして過去を振り返ると動機といえるものも2つぐらいある気がしてきました。

佐藤:3億年は振り返ったし、あるでしょうね。

佐藤:理由①:売ってるゲームに不満があったから。理由②:そこまでゲーム大好き人間じゃなかったから

佐藤:生意気なガキですなー。 理由②はよくわからないので説明を。

佐藤:自分は世間的には「ゲームオタク」なんでしょうけど、ゲームオタクの中ではたぶん相当「薄い」。

真のオタクは好きなこと話してると縦に弾む10けど、自分はあんまり弾まない。

むしろそれぐらいの人間の方が、モノを作ったときに 冷静に見られていいだろう!と思ったわけです。

佐藤: ほんとにゲーム好きだったんですか?

佐藤:だから、それを超越した時代だったんだって!好きとか嫌いとか最初に言い出すのはもっと後11。自分のゲーム歴はアーケードがスタートなんですが、ナムコ12が最高に輝いてた時代でした。

『ギャラクシアン』、『ボスコニアン』、『ラリーX』、そして『ゼビウス』に『ドルアーガ』!薄暗いゲームコーナーでまたたくテーブル筐体の光は、自分にとって今も神話の光ですよ。 音もよかった! 『奇々怪々』13とか、 筐体にびんびん響くからずっとデモを見てたし。

佐藤: ファミコン世代と言ってましたけど、任天堂スタートではないんですね。

佐藤:任天堂ももちろん好きですよ。さっき言ったゲームはほとんど移植された14し。しかも、すごいクオリティでしたからね!初期のPC版移植15とは違って……

佐藤:PCゲームもやってた?

佐藤:そりゃやりますよ! 今のおっさんが中国人より三国志に詳しいのは誰のせい16だと思ってんですか! 88、9817全盛期は、まじで日本のゲーム史上でももっとも幸せな時代だった感あります。『夢幻の心臓Ⅱ』に『ディガンの魔石』に、『天下統一』に『A列車で行こうⅢ』に……

佐藤:   「炎よ我が剣となれ」に「リッズ病」18!!

佐藤:で、同時に『Might & Magic book2』19にはまって洋ゲー黄金期に突入してくわけですよ!! (※このままDOS/V機の話になるため省略)

どうやってゲームデザイナーになったのか?

佐藤:えーと、その後ゲーム業界に入ったわけですが、どうやって潜り込んだんです?

佐藤:ふつうに企画書を送って、面接して、ですね。 面接したのは3社で、最初に内定くれた所に行きました。正直よく素人を採用してくれたな、と思いますよ。未経験採用あまりなかったし。

佐藤:入ってあとは順調にやってけました?

佐藤:やってけるわけないでしょ!ただの素人なんですよ!よく覚えてますが、最初に苦労したのは、「これどこが面白いの?」って質問。なんか企画とかすると絶対聞かれるんですけど、そもそも「面白い」って何だって話です

佐藤: うそみたいにゲーム会社っぽい会話だ。しかし苦労と言っても、新人なんだし教育期間とかあるはずでは?

佐藤:いえ、当時はどこも同じだったと思うんですが、ほぼいきなり実戦でした。教育より生き残った人間をピックアップする方が効率よかったんだと思います。

ひどい話ですが実際有効で、3年くらい生き残れば一通りの仕事ができるようになりました。デバッグ、マニュアル、仕様、データ、シナリオ、デザイン仕様、調整辺りですね。あとマスターディスクの作り方の呪術も習います。Prextorの1倍速で焼くといいマスターになる!20

佐藤:全部に関われたわけか。そういうところは楽しくていいですね。

佐藤:とはいえ「どこが面白いの?」みたいな質問とひとりで戦えっていうのはやばくないですか?この手の問いにまじめに取り組むと哲学とか宗教を経由して最後は戦争になる。

佐藤:陸海空そろってたのがここで効いてくる?

佐藤:いや、伏線とかではないです。とにかく毎日そういう質問にさらされてると何とかしないといけないと思えてくる。

佐藤:で、どうしたんですか?

佐藤: 理屈ですよ! 論理武装!ゲームデザイン論とか遊びについての本21とかを改めて読むわけです。仕事始める前から一応読んではいたけど、切実さが別次元だから吸収力が違う。叩いてからの方が味はしみるじゃないですか。きゅうりとかパパイヤとか。

佐藤: 要するにまだ青かった、と。それで「どこ面白いの?」に答えられたんですか?

佐藤:楽勝ですよ。あの質問が厄介なのは「誰にとって」が定義されてないからなんです。だから、仮に「小学生向け」のゲームと定義したら、胸を張って答えればいいだけです。「このゲームにはうんこがいっぱい出て来るので最高に面白いです!」と。

いまドリコムではどんな感じ?

佐藤: その後は順調だったんですか?

佐藤:いえ、最初の会社を辞めたあたりではだいぶ精神を病んで病院の世話になってました。

佐藤: もしかして、さっきのガラス球の話はここに?

佐藤:そうそう、第4チャクラ開いてたのはその頃です。まあ、すぐにふさがっちゃうんだけど。

佐藤: あれってふさがるの?

佐藤:傷口みたいなもんだし、それで自然なんじゃないですか。おかげで精神は回復しましたが。そのあとも、追い詰められたときには不思議と誰かが助けてくれましたね。カラスとか。

佐藤:アニマル・クロッシング!(日本語訳:どうぶつの森!)

佐藤:2週間ほど徹夜してシナリオとスクリプトをひとりでやってたときがあって。それまでいろいろダメなときはあったけど、今回は本気でダメかもって感じだったわけです。

そんな風に思いながら、誰もいない道を歩いてたら頭上でカラスが言ってくれたんですよ!大きな声で「喃(かあっ)」って。あれには救われましたね。

佐藤:言語道断22ということもあるしこの件はスルーしましょう。まだこうやってゲーム作ってるんですから救われたのは確かなんでしょうし。

いまはどんな感じです?趣味とか、ふだんの生活は。

佐藤:そもそも趣味ってほどのものがないので答えようがないです。

佐藤:休みの日の行動を振り返ればいいんですよ。

佐藤:ごはん作って食べて、洗濯して、ゲームして、ダゾーンみて、出かけて、本読んだりしますね。出かける先は買い物、食事、映画、試合観戦、読書会、博物館、コンサートとかです。

佐藤:最後の3つ(読書会、博物館、コンサート)を詳しく。

佐藤:読書会は何かの本について話す会で、新宿でやってる団体に暇なときに邪魔してます。博物館はおもに上野です。美術館もいくけど。せっかく東京にいるんですから。コンサートはふつうの音楽フェスとかです。バンドとかアイドルとかの単独も行きます。

佐藤:アイドルも行く。

佐藤:絶叫する60度に行ってチェキ撮ったら、その次の週あたりに大変なことになった23

佐藤:(注を読んで)なるほど……確かに。特に趣味もないのに、なんでこんなあちこち出かけてるんですか?

佐藤:理屈はよくわからないんですが、ずっと吐き出していると何か減って来るんです。それを埋め合わせるために、何でもいいから吸い込みに行くという感覚です。

いちばん効果が高いのは美術館ですね。とにかくデカい物を見ると確実に何か回復する。インスタレーションはだいたいデカいので疲れのひどい方には現代美術がおすすめです。

佐藤:さっきの話を聞くとけっこうな非常識人だと思うんですけど会社では平気なんですか?

佐藤:何とか。そもそも会社の方もだいぶ変だと思うんですよね。 ゲームつくってる会社で、あそこまで人間的に良い人が多い会社は相当レアだと思う。ふつうは良い人がレアっていうか、アレな人が一杯いる印象。

佐藤:さすがにそれは偏見では?

佐藤:何ていうか、常に「正しくあろう精神」を感じるので、そういう人たちが集まってるのかもしれません。本当に正しい?と聞かれたら当然至らぬ所もあるけど、まあ、いつも理想を追ってる感じはします。

佐藤:急にすごくまとめっぽい質問をして恐縮ですが、自分でも理想を追えてますか?

佐藤:よくそういう話でますけど、自分の理想がそんなに大切だとは思えないです。たとえてみると、自分的にコーヒーはブラックが一番うまい、理想だ、とするじゃないですか。だからって、お客さんにも「ブラックをすすめる」のはおかしくない?

佐藤:うざいマスターですね。 状況によっては屍24も警戒します。

佐藤:硫酸塩25ならいいけど(よくない)、大当たり26だったら死にますからね。『コーヒーはブラックが好きだけど、お客には砂糖とミルクも出す。入れると味のバランスがよくなるからだ』27というのが理想追求問題に対する自分の結論です。

佐藤:そういうマスターになるのが理想だと。そろそろ『稼業』の勝敗予想をしたいので3つの質問で終わらせてください。

佐藤:承知です!

佐藤:人生で大切なことは?

佐藤:知識と智慧の区別。

佐藤: 人生のベスト3冊は?

佐藤:アトキンス『エントロピーと秩序』、レム『ゴーレムⅩⅣ』、ワイルド『獄中記』。

佐藤:最後にこれだけは言わせてって台詞。

佐藤:『屍だ』28

佐藤: お疲れっした!じゃあ、トナメ2回戦の予想をしましょう!

(了)

  1. 『喧嘩稼業』
    『幕張』の作者、木多康昭が描いている格闘漫画(講談社刊)。 前作『~商売』から話が続いているが、ふつうは『~稼業』だけすすめた方がよい。 週刊誌連載だが、おおよそ2カ月に1回しか掲載されない。
  2. 佐藤姓としては外せない漫画
    『喧嘩稼業』の主人公の名前は「佐藤十兵衛」。設定は県知事の息子。
  3. やたら佐藤多い
    前に数えたとき自分はAから数えて佐藤Zくらいだった。
  4. 佐川
    『喧嘩稼業』で一番人気のキャラ(との説もある)佐川兄弟。基本的には兄弟とも日本拳法の遣い手である。日拳について極好な説明を思いついたがこの余白は狭すぎる。
  5. あのガラス球の話
    細かい話は省くが、佐川兄は胸の中にガラス玉があると信じており、また細かい事情を省くと、それが割れてしまったことで中の毒薬が体内に回り、毒の緩和のため人の血を欲する体質となってしまった結果、(たぶん中卒で)外人部隊に身を投じた。
  6. 鉛色の液体
    つらいことがあったとき胸が痛んだりするが、その場所をひたすら掘り続けていくとやがて貫通して例の「ガラス球」の中に出る。そこにはどろっとした鉛色(銀色、煙色とも)の液体が流れており、ここが貫通すると愛想がよくなって嫌いな人が嫌いでなくなる。いわゆる第4チャクラ。(※効果には個人差があります)
  7. 諸岡さん
    このページの発起人。別に井端には似てない。
  8. 『世界の艦船』と『PANZER』と『AIR WORLD』
    いずれも月刊誌。『丸』や『航空情報』や『軍事研究』が入ることも。単に西側兵器のマニュアルが転載されてるだけだったりする『MARCH』も好きだった。よく混同されるが、軍事オタクは『GUN』など小火器関係の雑誌は読まないことが多い。
  9. イクチオステガ
    『46億年物語』に登場するキャラ。3億6千万年前に生きてたらしい。似ているキャラは『伝染るんです』(吉田戦車)の山崎先生。
  10. 真のオタクは好きなこと話してると縦に弾む
    実話。
  11. 好きとか嫌いとか最初に言い出すのはもっと後
    1994年に藤崎詩織(CV金月真美)が。PCエンジンのCD-ROM2で。
  12. ナムコ
    家庭用での社名は「ナムコット」(namcot)で、当時すごい不思議だった。次の行の作品はいずれもナムコ社のアーケードゲーム。
  13. 『奇々怪々』
    タイトー社のアーケードゲーム。オリジナル基盤は確保済みで老後の楽しみにとってある。
  14. ほとんど移植された
    『ラリーX』、『ボスコニアン』にファミコン版はない(『奇々怪々』はディスクシステムに移植されたが大幅アレンジされた別作品)。ただし、その後発売された『スターラスター』はボスコニアン戦争後の物語であり、破壊されたボスコニアンのベースが基地として再利用されているのがわかって感動する。また『鉄拳』シリーズに登場するジャックの制作者も「Dr.ボスコノビッチ」。『怒首領蜂』(ケイブ社)のマニュアルに登場する「ロンゲーナ大佐」(実際ロンゲ)並みに適当なネーミングだが、忘れたくねーよ!という気持ちが伝わってきてこちらも感動した。
  15. 初期のPC版移植
    『タイニーゼビウス』で検索すると事情は伝わると思うが、テープメディアへの移植自体が壮挙なのであって、本来クオリティを問題にすべきではない。すみません。
  16. 誰のせい
    シブサワ・コウ氏のせい。氏の実在確認のため光栄の入社試験に行った者は多い。
  17. 88、98
    NECのPC、PC-8801とPC-9801のこと。大容量1.44MBのFDD(フロッピーディスクドライブ)を2つも装備!! やったぜ!
  18. 「炎よ我が剣となれ」に「リッズ病」
    「炎よ我が剣となれ」は『夢幻の心臓Ⅱ』の魔法名。台詞みたいでかっこいい! あんまり語られないが後代に大きな影響を与えた偉大な国産RPGシリーズ(Ⅲまで)。 「リッズ病」は『ディガンの魔石』に登場する病気で、遠回しにいうと「ぱふぱふ屋」相当の施設で感染するが、ある道具を使うと予防できる。主人公が「妻の病気の治療法を探す」という動機で旅立つ素晴らしく先進的なRPG。
  19. 『Might & Magic book 2』
    日本版の開発はスタークラフト社。敵が256匹出てきたり、タイムトラベルしたり、核爆発の後を歩いたりする作品なので、気楽にゴブリンの集会を解散させたりしてはいけない。世界3大RPGに入るかどうかでも揉める。これより前のウルティマ2でも宇宙に行ったりするように、昔のゲームはやたらスケールが大きかった。
  20. Prextorの1倍速で焼くといいマスターになる!
    出勤が少ない土日の方が電圧が安定しておりエラーの少ないROMが焼ける、太陽誘電の一番高いCDR以外はマスターディスクとして使ってはならない、などの口伝もある。
  21. ゲームデザイン論とか遊びについての本
    最近ようやく翻訳された『ゲームデザインバイブル 第2版』はいい本です。
  22. 言語道断
    世間一般で使われてる意味とは違い、もとは「言っちゃうと伝わらない」的な意味の仏教用語です。不立文字(ふりゅうもんじ)と似てる。
  23. 大変なことになった
    メンバーの結婚と一旦の活動休止が発表された。

  24. かばね。『喧嘩稼業』に登場する梶原柳剛流の隠語で「毒」のこと。
  25. 硫酸塩
    前作『喧嘩商売』で主人公が対戦相手の柔道家と食事した際に話題に出した化合物。食べるとひどい下痢を起こすらしい。
  26. 大当たり
    『喧嘩稼業』に登場する梶原柳剛流が赤ちゃんの糞便から作り出した超強力な毒素。ありていに言えば激レア株のボツリヌストキシン。
  27. コーヒーはブラックが~
    『タイユバンの優雅な食卓』(文春文庫)に登場するパティシエの言葉。
  28. 『屍だ』
    『喧嘩稼業』で主人公がデスフルラン(麻酔薬)を使ってある人物を昏倒させた後に吐いた台詞。連載ではトーナメント第5試合まで進んでいるが、5試合のうち2試合の決まり手に毒物が関係している。格闘技の大会なのに……